DEC. 2018
私たちが企画・編集し、7月末に刊行された『生き物としての力を取り戻す50の自然体験』は心や感性に野生を取り戻すことを趣旨とし、デザイナー、アーティスト、科学者など自然に対してユニークな視点を持つ33人が著者として名を連ねている。そのうちの1人にデザイナー、デザイン教育者としてベルリンで活躍する阿部雅世さんがいる。阿部さんはデザインのエクササイズとして自然に触れ、感覚や感性を解放するというデザイン教育を実践されていて、企画の早い段階から執筆をぜひお願いしたいと考えていた人だった。
原稿の具体的な内容についてメールでやり取りをしていると、阿部さんから、バウハウスのあるデッサウで “Sensory Experience Design” のサマースクールを開催するから、興味があれば参加しないかとお誘いをいただいた。5日間のプログラムで、さまざまな国の学生やプロフェッショナルが参加するサマースクールであるという。しかも、場所はあのバウハウスだ! 私たちはディスプレイのなかでのユーザー・エクスペリエンスだけでなく、ディスプレイの外にも広がるリアルな空間で身体性をともなう体験をデザインすることを標榜している。五感をフル活用して空間の可能性を探検する"Sensory Experience Design"はテーマとして魅力的で、仕事の状況次第ではあるけれどぜひ参加させていただきたい旨を連絡した。
サマースクールは、阿部さんが"Design Gymnastics ABC"と呼ぶワークショップから始まった。自然のなかでアルファベット26文字と0から9までの数字を一揃い見つけるというもので、普段のものの見方とは異なる「型」をもって自然を眺めることで、我々がもっている「センス・オブ・ワンダー」を解き放つ。サマースクールは、その後、いくつかの講義と建築空間をさまざまな感覚で切り取る体験を経て、最終課題である、バウハウスの建築空間を、五感を通じてより豊かに感じられる空間へとリデザインするためのプロトタイプ制作へと進んでいく。 このサマースクールでは、少し大げさかもしれないがどう生きていくべきかというレベルから、プレゼンテーションのテクニックに到るまで、実にさまざまなものを得たように思う。そのなかでも、これからデザインに携わる際に、大切にしていきたいと感じたことは、発見とその喜びということだ。
自然のなかに人間が作った記号と同じ造形を見つける"Design Gymnastics ABC"では、横から下から、大きく小さく、さまざまなスコープとアングルで自然を探ることで、見る・観る・診るをひたすら実践する。そのなかで、これは奇跡かと思うような落ち葉のコンビネーションや、目をみはる美しい螺旋に出会うことができた時、わっと喜びが溢れ、誰かにこの発見を伝えたいと言う衝動にかられる。人間は何かを発見するということに、特別な喜びを感じるように作られているに違いない。
サマースクール後半になると、いよいよ手を動かす時間の始まりである。「さらさら」、「ちくちく」など、自分で決めたオノマトペをコピー用紙のみを素材としテクスチャーをプロトタイピングする。完成すると全員の作品がオノマトペのキャプションとともに展示され、目で見た様子や触感を観察し、新しく何かを発見するセッションが始まった。コピー用紙からは実にさまざまなテクスチャーが生み出され、そのアイデアに思わず感嘆の声が漏れる。さまざまなプロトタイプをみて、触れて、発見したことを写真に記録する。
私は、光が当たる方向によってテクスチャーの表情が変わっていくことや、風があたることによって心地よい小さな音をたてることなどを発見した。最終課題ではこれらの発見をインスピレーションとして、バウハウスの建築空間を感覚的により豊かなものへと変容させるテクスチャーを制作する。例えば、私の発見からはこんな想像が広がった。バウハウスの中で陽の光がよくあたる場所に、光の角度により表情を変えるテクスチャーを配置することで時刻によって印象が変化する空間とすることができるのではないかとか、人が動いて風が生まれ、そこにさわさわと音がなるテクスチャーを使うことで、歩くことを楽しくさせることなど。
プロトタイプを探索する素材としてみるということは、私にとっては新鮮な体験だった。私たちが普段プロトタイプと向き合うとき、こういった探索するような態度で接することは稀で、何が機能し何が機能しないのか、検証するような態度であることが多い。新しい発見が創造を刺激するという実に単純でありながら、すっかり忘れていた喜びがそこにはあった。
ふと、私がいるユーザー・エクスペリエンス・デザインという世界では、デザイン思考とかイノベーションとか、発想することや創造すること、つまり頭で考えて何かを生み出すことに力点が置かれすぎているのではないかと思い始めた。他の人はそうではないかもしれないが、少なくも私自身についてはそうだった。その結果、感覚や発見するということが軽んじられているのではないか。
デジタルな世界でのユーザー・エクスペリエンスをデザインする時にも、頭で考えて何かを生み出すだけでなく、五感をとおして新しい何かを見つけるということに時間をかけることは重要に思えるのだ。体験をシナリオとして頭で考え、発想することももちろん重要ではある。しかし、そもそも体験として豊かであるということは五感で感じられる豊かさに基礎があるはずだ。デジタルな世界には実態がなく、身体的、感覚的な発見は実世界のようにはできないことは確かだが、それでも小さなプロトタイプを素材として新しい発見を試みることは可能だろう。
五感と発見を重視したプロセスは、出来上がるデザインにも影響を与える。発見が創造を刺激し、単純に頭で思考することだけでは生まれ得ない、ある種の偶然性を含む新しい何かを導く。
サマースクールの題目である"Sensory Experience Design"の私なりの理解は、五感をとおして発見したことをインスピレーションとしてデザインを生み出す、ということで、その過程で、諸感覚の感度や解像度を高め、発見することを楽しむ、ということだ。
人間は何かを発見するということに、特別な喜びを感じるように作られている。デザインプロセスに発見することを復活させることは、なによりデザインするということの楽しさと喜びを増やすことになるのだろう。
サマースクールは私なりのたくさんの発見を得る特別な機会となった。素晴らしい機会をいただき、いつもあたたかい阿部さんに感謝の気持ちでいっぱいである。
Surface&Architecture 岡村祐介
原稿の具体的な内容についてメールでやり取りをしていると、阿部さんから、バウハウスのあるデッサウで “Sensory Experience Design” のサマースクールを開催するから、興味があれば参加しないかとお誘いをいただいた。5日間のプログラムで、さまざまな国の学生やプロフェッショナルが参加するサマースクールであるという。しかも、場所はあのバウハウスだ! 私たちはディスプレイのなかでのユーザー・エクスペリエンスだけでなく、ディスプレイの外にも広がるリアルな空間で身体性をともなう体験をデザインすることを標榜している。五感をフル活用して空間の可能性を探検する"Sensory Experience Design"はテーマとして魅力的で、仕事の状況次第ではあるけれどぜひ参加させていただきたい旨を連絡した。
サマースクールは、阿部さんが"Design Gymnastics ABC"と呼ぶワークショップから始まった。自然のなかでアルファベット26文字と0から9までの数字を一揃い見つけるというもので、普段のものの見方とは異なる「型」をもって自然を眺めることで、我々がもっている「センス・オブ・ワンダー」を解き放つ。サマースクールは、その後、いくつかの講義と建築空間をさまざまな感覚で切り取る体験を経て、最終課題である、バウハウスの建築空間を、五感を通じてより豊かに感じられる空間へとリデザインするためのプロトタイプ制作へと進んでいく。 このサマースクールでは、少し大げさかもしれないがどう生きていくべきかというレベルから、プレゼンテーションのテクニックに到るまで、実にさまざまなものを得たように思う。そのなかでも、これからデザインに携わる際に、大切にしていきたいと感じたことは、発見とその喜びということだ。
自然のなかに人間が作った記号と同じ造形を見つける"Design Gymnastics ABC"では、横から下から、大きく小さく、さまざまなスコープとアングルで自然を探ることで、見る・観る・診るをひたすら実践する。そのなかで、これは奇跡かと思うような落ち葉のコンビネーションや、目をみはる美しい螺旋に出会うことができた時、わっと喜びが溢れ、誰かにこの発見を伝えたいと言う衝動にかられる。人間は何かを発見するということに、特別な喜びを感じるように作られているに違いない。
サマースクール後半になると、いよいよ手を動かす時間の始まりである。「さらさら」、「ちくちく」など、自分で決めたオノマトペをコピー用紙のみを素材としテクスチャーをプロトタイピングする。完成すると全員の作品がオノマトペのキャプションとともに展示され、目で見た様子や触感を観察し、新しく何かを発見するセッションが始まった。コピー用紙からは実にさまざまなテクスチャーが生み出され、そのアイデアに思わず感嘆の声が漏れる。さまざまなプロトタイプをみて、触れて、発見したことを写真に記録する。
私は、光が当たる方向によってテクスチャーの表情が変わっていくことや、風があたることによって心地よい小さな音をたてることなどを発見した。最終課題ではこれらの発見をインスピレーションとして、バウハウスの建築空間を感覚的により豊かなものへと変容させるテクスチャーを制作する。例えば、私の発見からはこんな想像が広がった。バウハウスの中で陽の光がよくあたる場所に、光の角度により表情を変えるテクスチャーを配置することで時刻によって印象が変化する空間とすることができるのではないかとか、人が動いて風が生まれ、そこにさわさわと音がなるテクスチャーを使うことで、歩くことを楽しくさせることなど。
プロトタイプを探索する素材としてみるということは、私にとっては新鮮な体験だった。私たちが普段プロトタイプと向き合うとき、こういった探索するような態度で接することは稀で、何が機能し何が機能しないのか、検証するような態度であることが多い。新しい発見が創造を刺激するという実に単純でありながら、すっかり忘れていた喜びがそこにはあった。
ふと、私がいるユーザー・エクスペリエンス・デザインという世界では、デザイン思考とかイノベーションとか、発想することや創造すること、つまり頭で考えて何かを生み出すことに力点が置かれすぎているのではないかと思い始めた。他の人はそうではないかもしれないが、少なくも私自身についてはそうだった。その結果、感覚や発見するということが軽んじられているのではないか。
デジタルな世界でのユーザー・エクスペリエンスをデザインする時にも、頭で考えて何かを生み出すだけでなく、五感をとおして新しい何かを見つけるということに時間をかけることは重要に思えるのだ。体験をシナリオとして頭で考え、発想することももちろん重要ではある。しかし、そもそも体験として豊かであるということは五感で感じられる豊かさに基礎があるはずだ。デジタルな世界には実態がなく、身体的、感覚的な発見は実世界のようにはできないことは確かだが、それでも小さなプロトタイプを素材として新しい発見を試みることは可能だろう。
五感と発見を重視したプロセスは、出来上がるデザインにも影響を与える。発見が創造を刺激し、単純に頭で思考することだけでは生まれ得ない、ある種の偶然性を含む新しい何かを導く。
サマースクールの題目である"Sensory Experience Design"の私なりの理解は、五感をとおして発見したことをインスピレーションとしてデザインを生み出す、ということで、その過程で、諸感覚の感度や解像度を高め、発見することを楽しむ、ということだ。
人間は何かを発見するということに、特別な喜びを感じるように作られている。デザインプロセスに発見することを復活させることは、なによりデザインするということの楽しさと喜びを増やすことになるのだろう。
サマースクールは私なりのたくさんの発見を得る特別な機会となった。素晴らしい機会をいただき、いつもあたたかい阿部さんに感謝の気持ちでいっぱいである。
Surface&Architecture 岡村祐介
photo © MasayoAve creation | SED.Lab, DocuTeam_Anhalt University
3-7 September 2018
SED.Lab international masterclass@BAUHAUS Dessau
SENSORY EXPERIENCE DESIGN 2018
to interconnect the basic of spatial design to human senses and sensory experiences
directed by MasayoAve
SED.Lab international masterclass is a joint summerschool pilot of
Berlin International University of Applied Sciences,
Anhalt University Dessau design school,
Shibaura Institute of Technology and Hosei University
in cooperation with SED.Lab - sensory experience design laboratory, Berlin