コンピュータがどんどん小さくなって来ているのは周知のとおりだ。今後は砂のように小さなコンピュータやロボットを作ることが可能になり、この非常に小さな粒子を大量に制御することで、「粘土のようにカタチが変化するモノ」を作ることが可能になると考えられている。
Craytronics
このようなナノスケールの大量の粒子により形状が変化するモノは、プログラマブル・マター(Programmable matter)、あるいはクレイトロニクス(Craytronics)という名前で知られている。「プログラマブル・マター」という言葉は90年代前半、セル・オートマトンのような自己複製装置の意味で使われていたそうだが、90年代後半、半導体技術の進化により物理的な特性をプログラムできる可能性が見え始め、現在使われているような意味=「物理的特性をプログラム可能な大量のもの(any bulk substance which can be programmed to change its physical properties)」へと移り変わったという。2002年にはプログラマブル・マターを実現させるためのソフトウェアとハードウェアの調査プロジェクト、クレイトロニクスプロジェクトがカーネギーメロン大学で始まっている。
プログラマブル・マターやクレイトロニクスの具体的なイメージはこの映像を見て頂きたい。
Organic User Interface
インターフェイスの領域でも、「カタチが変化するということ」をテーマとした研究が行われている。今回はこのオーガニック・ユーザインターフェイスを紹介し、次回はMIT Tangible Media groupのRadical Atomsを紹介しようと思う。
オーガニック・ユーザーインターフェイスは、以下のように定義されている。
「オーガニックユーザーインターフェイス(OUI)とは、物理的な入力によって変化する、平面ではない表示装置をもっているユーザーインターフェイスである。OUIは、いかなる形にも変化可能な、出力装置であると同時に入力装置としても使えるディスプレイによって特徴づけられる。(An organic user interface (OUI) is a user interface “with non-planar displays that actively or passively change shape via analog physical inputs.” OUIs are characterized by displays that can change or take on any shape and their ability to use the display as an input device.)」
OUIを実現する技術は、大量の粒子を制御するという方法にかぎらず、実現方法は広くとらえられている。OUIは企業が製品として提供するにはまだハードルが高いが、カタチと機能の関係等、そのエッセンスは現在のインタラクションデザインのなかに取り入れて行くことができるのではないだろうか。OUIには、下記の3点のデザイン原則が掲げられている。
Input Equals Output:
GUIでは、マウス・キーボードからの入力をディスプレイに出力するという形で、入力装置と出力装置明確に分けられていた。OUIでは、ユーザーはオブジェクトを直接操作し、結果はそのオブジェクトに出力される。入力と出力が分かれてない、ということがOUIの特徴である。Function Equals Form:
オブジェクトのカタチにより、ユーザーはどのような入力が可能であるかを明確に理解することができる。Form Follows Flow:
オブジェクトはユーザーによって、折り曲げる、ねじる、ゆがめる、切り取るなどの操作により受動的にカタチが変わるだけでなく、ユーザーとのインタラクションに従って適切なデータを反映させるために、オブジェクト自らが能動的にカタチを変更する。
モノのあり方の変容
CraytoronicsやOUIはリアルタイムにモノのカタチが変わっていくという、これまでのモノのあり方とは異なる「モノ」が提示されている。ネット上のサービスでは既に工業的な文脈におけるモノのあり方を変容させる事例が存在する。
Shapeway
3D プリンティングサービスを行うShapewayでは、ユーザーが作成した3Dデータをリアルなものにしてくれるサービスの他に、ユーザー間での3Dデータの売買、簡易的なツールによるオリジナルアイテムの制作などを行える。Nervous System
Nervous Systemは、シリコンやステンレスなど、これまでジュエリーに使われなかった素材を使ったジュエリーの販売を行っている、ジュエリーのデザインは、自然界の複雑なパターンや、コンピュータによって生成されるものが使われているのが特徴だ。また、アプレットを使って自分でパターンを生成したオリジナルなジュエリーを作ることもできる。
この2つのサービスは、リアルタイムではないものの、ユーザーが作ったデータからオリジナルのカタチを手に入れることができるという点でこれまでにないサービスを提供している。現在は、3Dプリンターなどの特別な出力装置を使っているが、今後はCraytronicsのような小さな粒子を大量に制御する技術が進んだ時には「素材」自体がカタチを構成し、特別な装置は不要となるのだろうか…
いずれにしても、私たちがモノのカタチを操ることは、以前に比べて容易になりはじめているようだ。
次回は、Radical Atomsを紹介しながらこのあたりのテーマについてもう少し考えてみようと思う。
2009年9月8日追記:オーガニックユーザーインターフェイスのオーガニックには、ディスプレイに有機材料を使用することと、生物のように多様な形のモノという意味がある
参考サイト
プログラマブル・マター クレイトロニクス
http://en.wikipedia.org/wiki/Programmable_matter
http://en.wikipedia.org/wiki/Claytronics
http://www.cs.cmu.edu/~claytronics/
http://techresearch.intel.com/articles/Exploratory/1500.htm
http://jp.makezine.com/blog/2008/03/claytronics_nanoscale_rob.html
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0903/08/news002.html
http://wiredvision.jp/news/200706/2007061921.html
OUI
http://en.wikipedia.org/wiki/Organic_user_interface
http://www.organicui.org/
http://90mobilesin90days.com/index/?p=225