Radical Atoms

先日エントリーした、CraytronicsやOrganic User Interfaceに引き続き、今回は関連するMIT Tangible Media GroupのRadical Atomsについてまとめてみようと思う。

Radical Atomsとは

Radical Atomsとは、石井裕氏らによって2009年4月のCHIで発表された、ダイナミックに変化するマテリアルとのインタラクションに関するビジョンである。発表資料によると、ダイナミックに変化するマテリアルとは、構造上の制約に従い、構造や振る舞いを変化させることで、新しい機能を知らせることができるものである(Conform to structural constraints, Transform structure & behavior, and? Inform new abilities. )という。
これまでTangible Media Groupで研究されてきたTangible Bitsでは、ビットの世界はプログラム可能で柔軟だったが、アトムの世界は静的なままだった。Radical Atomsが目指すのは、ビットだけでなくアトムの世界を柔軟にプログラム可能にしようというものだ。これまでのインターフェイスは、奥に控えるコンピュータとの対話を円滑に、あるいは自然に行うことを目指していたのに対し、コンピュータの存在感はもっと希薄になり、物自体がインターフェイスでもあり、コンピューティング機能も持っている、そんなインタラクションが目指されているようだ。

speak cup

Tangible Media Groupによるspeak cupという作品は、このような形状が変わるインタラクションを簡易的に実現したもので、その制作から得られた洞察をまとめた研究資料(pdf)が公開されている。speak cupは円盤状のシリコンで外装された単機能のボイスレコーダーで、この円盤は器のように凹面に形状を変更すると録音が開始し、反対の凸面にすると再生が始まる。
凹面はお皿に似ていて、「物がたまる」という類推から、造形と機能の対応づけは行いやすい。一方で、造形を活用していくのであれば、一見して機能や使い方が分かると良いが、この事例では、まだ造形から機能を知ることは難しいと言わざるを得ない。例えば、ハサミの形をしていれば用途がすぐわかるように直接的な形の類似性があれば有効である一方、そもそも形から機能を想起しにくいもの、例えばビデオ編集機のようなものなどには、いろいろな課題がありそうであることがうかがえる。speak cupの研究資料は、以下のように締めくくられている。
「ダイナミックに変化するマテリアルとのインタラクションにおいて、より複雑なインタラクションをデザインする方法は、まだ知られていない。この方法を理解することは、今後数十年、ヒューマンコンピュータインタラクションの領域が挑戦すべき大きな課題となるだろう。(It seems that we do not yet know how to scale up complex interactions with dynamic physical materials. To understand how to do this will be a major challenge over the next few decades of human-computer interaction research. )」

インタラクションデザインの1つの方向として、造形と機能の関係を活用する、あるいは問い直す?ようなインタラクションは非常に野心的で大きな可能性が感じられる。技術の発展を待たなければ、このようなインタラクションは実現できないのだろうか?そうではないはずだ。speak cupで簡易的に実現したように、実装方法が異なっていても「似た経験ができる何か」を作る方法はなんらかあるはずだ。その経験から得られた知見は技術の発展を方向づけるような洞察までを含むかもしれない。

こんなテーマで近いうちにハードウェアスケッチを行い、経験から自分たちなりの洞察を導きたいと思っている…

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