住宅をオープンソース化する試み

以前に、「デザインとオープンソースハードウェア」というタイトルで、オープンソースハードウェアがサスティナブルな社会に貢献するのではないか、というようなことを書きました。今回は、このエントリーに続いてもう少しこのあたりを掘り下げて、ものづくりの分散化について考えてみようと思います。

※オープンソースハードウェアの簡単な説明はこちらをどうぞ。

住宅のオープンソース

既にご存知の方も多いかも知れないが、住宅のオープンソース化の試みに、建築家の秋山東一氏による「Be-h@us」という住宅システムがある。「Be-h@use」は、日本の風土にあった「木の家の作り方」をネットワーク上で共有化し、オープンソースのような存在にしようとするプロジェクトだ。ネット上に公開された部材のマニュアルや設計支援ツールでセルフビルドすることも可能だ。

秋山氏がセルフビルドを推し進める理由は、現在の日本の住宅への問題意識から始まっている。その問題意識は単純にハードが良くないという問題ではなく、生産と消費の構造への問題意識による。

―現代の住宅の問題は、生産者と消費者とが分断している、ということにあるのではないかと考えています。本来、住宅の作り方は伝統的、地域的な「共有知」に基づいたものであったはずですが、それを支えていた伝統的地域共同体の崩壊とともに、ハウスメーカーや工務店、設計者というような、生産組織の経済行為としての住宅の作り方に取り変わってしまったのです。

「Be-h@use」では、サスティナビリティや環境問題はどのように捉えられているのだろうか?

Be-h@us のシステムは、その高性能をもって環境に負荷をかけない住宅を作りだします。その徹底ぶりは、その住宅が遠い将来、廃棄されるゴミになる時まで配慮されて います。また、Be-h@us にオプションとして附加される機能、Be-air という「夏涼しい家」を作る換気システム、Be-solar という壁面、屋根面を集熱面とするソーラーシステムは、そこでの生活を十分エコロジカルなものにします。それも、しっかりとした Be-h@us の躯体・箱があっての仕掛けなのです。

さらに、秋山氏はこう続けている。

自分で作った家こそ、自らの責任で維持し発展させることができます。時間の中で、家は変化していきます。また、変化させていかねばなりません。

オープンソース、サスティナブル、デザインが重なる領域で、Be-h@useが示す、可能性の一つ目は、環境負荷が低いものづくりの方法をオープンソースで共有していく、というあり方。(このあたりは、Designers Accordに通ずるところがある。)特徴的なのは、完成形のソースが提供されるのではなく、自由度を持ったシステムとして、住宅を作るための環境として、提供されているところだろう。もちろん、ある完成形のソースを公開していくということにも大きな意味があるが、準備された仕組みを活用しモジュールを組み合わせるように、新しいものを生み出せるという環境は、創造力を刺激するのに程よい制約として機能する…。恐らく、今後ものづくりが本当に分散化すれば、一定の審美性や専門的な知恵が活用された「ものを作りのための環境やシステム」が求められ、デザイナーはこんな形でユーザーが作ることを支援するということが多くなるのではないだろうか。
可能性の二つ目は、現在の消費と生産の構造を問い直すというところにある。これまで生産者に委ねられてきた生産プロセスを、個人が取り戻すということは、生産と廃棄に関する環境問題に対し、個人がより大きな自由と責任を持つということを意味している。ポジティブに捉えれば、大量生産で余って廃棄されていたようなものが減ったり、「自らの責任で維持し発展する」意識が生まれて一つ一つの物の寿命が延びることなども想像できる。あるいは、地域共同体に根づいたものづくりであれば流通時の環境負荷を低減することも可能かもしれない。一方で、大量生産型の効率の高い生産システムではないために資源を有効に使えずに無駄が多くなる可能性や、産廃の管理などが企業単位以上に分散化することで社会全体での統制が難しくなるなどの反対意見もあるだろう。

生産と消費の話や社会の仕組については、まだまだ知識が乏しく結論めいた事は言いにくいのだけれど、現在、とても大切な問題として浮上しているように思う。今は、このあたりのヒントを求めて、イヴァン・イリイチの「コンヴィヴィアリティのための道具」を読み進めているところだ…

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